「もう、パチンコ辞めるって言ったよね」
「ごめん、本当にごめん。今度こそ辞める」
「その台詞(せりふ)、何回も聞いたよ」
「ごめん……」
やばい、彼女が本気で怒っている。怒った顔が可愛くて、思わずにやけそうになるけど、ここは我慢しよう。前に「怒った顔も可愛いね」って言ったら、余計に怒らせてしまった。今度こそは、本気みたいだ。ついに三下り半を突きつけられてしまうのか。
「競馬だって辞められないじゃん」
「えっ?」
「わかってるんだよ、私の財布からちょこちょこ取っていったでしょ?」
「あっ……ごめん」
しまった。バレちゃったのか。少しずつならバレないと思ったのに。いやー、これは本当にヤバいな。彼女は相当怒ってる。怒った顔がまた可愛いんだけど。
「もう私たち……終わりだよ」
「えっ?」
「この前ちゃんと言ったよね、私」
「えーっと……何を、言ったっけ……」
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いやー、ヤバい。何だっけ? 何を言われたんだっけ? 本当に覚えてない。いつも怒られてばっかりだからなあ。いつもなら、キスをすれば許してくれるんだけど。今日はちょっと、そんな雰囲気じゃないかも……。
「今度ギャンブルしたら、本当に別れるよって」
「えっ?」
あー、そうだった。そう言われてたんだ。すっかり忘れていた。ヤバイ、怖い顔になってる。「もう絶対にしないよ」なんて言っても、今度ばかりはダメかも知れない。
何と言っても、彼女の両親にも認められていないからな、俺は。そりゃあ、こんなギャンブル狂いの男に、大事な娘を任せられるわけないよなあ。
両親から勧められている見合い話を、彼女は受けるつもりなんだろうか? この顔を見ていると、もう気持ちは固まっているみたいだ。
俺たち、あんなにうまくいっていたのに。彼女は俺にとって、最高の女性なんだけどなあ。だけど俺は、彼女にとって最高の男だなんて言えないしなあ。
彼女の笑顔は最高だ。怒った顔も可愛いけど、やっぱり笑顔が最高に可愛いんだ。でも、そんな笑顔を俺は、彼女から奪ってしまった。もし願いが叶うなら、もう一度キスがしたい。別れるのは仕方ないけど、もし許されるなら最後に、もう一度だけ……。
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