「美和子(みわこ)へのプレゼント、もう一つあるんだけど……」
君の二十四回目の誕生日を祝いたいからと、達也(たつや)の部屋に呼ばれた美和子。達也の手作りバースデーケーキ、箱に入った薔薇の花束、シルバーのネックレス、これだけもらえば充分だと思っていたのに、まだあるなんて……。
もしかして指輪? プロポーズ? 付き合い始めて一年になる二人。もしプロポーズだったら、何て答えたら良いの? 美和子は、頬が赤くなっている事を気にしながら、達也の言葉の続きを待っていた。
「これなんだけど……」
そう言って、白い封筒を渡す達也。普通は箱に入っていると思うんだけどなあと思いながら、美和子は受け取って中身を確認してみた。
「……鍵?」
「そう、この部屋の鍵。僕と一緒にここで住もう!」
これはプロポーズ? 結婚しよう、じゃないのね。まあ、いっか。美和子はとりあえず、達也の気持ちを受け入れた。
「うん、いいよ!」
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思いっきりの笑顔で答える美和子。達也はちょっと、天然と言うか、少し変わっている。真面目だけど、そんなに頭が良いわけではない。収入も、特段良いとは言えない。それでも美和子が許せるのは、外見が美和子の理想のタイプだったから。
背が高く、ハーフのような綺麗な顔立ち。筋トレが趣味だけあって、かなり引き締まった肉体。高学歴で高収入の美和子は、達也に対して収入は期待していなかった。お金は自分が稼げば良い。ただ、綺麗な顔を眺めているだけで幸せなのだ。
自宅に戻った美和子は、日曜日に引っ越しをするための荷物をまとめた後、思い出したようにパソコンを開いた。「達也」と書かれたフォルダーを開くと、半年前から撮り溜めたいくつもの動画が出てきた。
それは全て、達也が部屋で寝ている様子を撮ったものだった。それらを一通り確認した美和子は、「これから一緒に住むんだから、もういらないよね」と呟いた後、フォルダー毎(ごと)全て削除した。
机の上には、達也からもらった鍵の他に、もう一つ同じ鍵が置いてある。達也の目を盗んでコピーしておいた合鍵。「これももういらないか」美和子はそう言って、その鍵をゴミ箱に投げ捨てた。
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