この作品は、神野守作【切ない恋愛短編集】「君が出て行く夜」を、大河内ミュウさんが二次創作したものです。
まずは神野守作【切ない恋愛短編集】「君が出て行く夜」を読んでからこちらを読んでいただくと、より内容が理解できると思います。
神野守作【切ない恋愛短編集】「君が出て行く夜」
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「あれは誤解だよ、ただ彼女の恋愛相談に乗っていただけなんだよ」
そう言ってあなたは、私の目をまっすぐ見つめている。
「私なんてもうおばさんだから、あなたには若い子の方がお似合いなのよ」
私は笑いながら週刊誌を閉じる。そんな態度に呆れたのか、気まずい時間を埋めるように、あなたはビールを飲んでいる……。本当はわかっているの。あなたの言っている事が真実だって事……。
彼と一緒に週刊誌の一面を飾っているのは、最近話題の映画で一躍人気女優になったサオリ。彼と舞台で共演して以来、故郷が同じらしく兄のように慕っていたらしい。優しすぎる彼は、彼女が話す彼氏とののろけ話に付き合っていただけらしいが……。
果たして二人は、彼女は兄妹以上の感情を一瞬でも抱かなかったのか……。二人きりで会って、時には泣きたくなるくらい悲しい話をする事もあるだろう。抱きしめてほしい時もあると思う……。本当の兄妹ではないのだから……。
私ってこんなに、ヤキモチ焼きだったっけ……?
「お風呂入ってくる」
気づきもしなかった初めての感情に戸惑いながら、バスルームへと向かう。
彼との出会いは今から五年前。昔から夢だった女優になるために上京し劇団に入った時、彼もまた俳優になりたくて田舎から上京していた。恋人役をきっかけに急接近し同棲生活を始めた。さすがに無名の二人では、いつ日の目を見るかわからない。不安な思いを抱えて生活するのは無理だ。彼に夢を託し、私は劇団を辞め働き出した。
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人見知りで口下手な彼は、権力者に取り入る事の出来ない性格で、多くのチャンスを逃してきたと思う。だけど……だからこそ、自分の思い描く俳優像に近づくために、人一倍懸命に努力し続けている。そんな彼が大好きだった。もちろん、結婚もしたかった。
よくやく実力が認められ、まだTVドラマの脇役だが出演している。毎晩のように語る、彼の明るい未来像を聞いてるだけで幸せだった。二人がずっと一緒にいられる方法は、なにも結婚だけとは限らない。私はまた一つ、自分の夢を手放した。
そんな中、娘の将来を案じたのか、両親からお見合い話を聞かされた。相手は普通の会社員で普通の人らしい。三十過ぎの娘が、未だ独身で東京で夢にしがみついている。それを不憫に感じたのか。それとも結婚はしたいが相手がいないのかと心配だったのか。両親の事はずっと気にはなっていたが、ここ数年帰ってはいない。そろそろ親孝行しなくては。孫の顔でも見せて安心させたいしね。
「ごめん……やっぱり無理みたい、私。あげまんにはなれなかった。やっぱりさげまんだったね。田舎に帰ってお見合いする事にした。私には、普通の人、普通の人生が合ってるんだと思う」
彼のそばにいられるなら、彼の夢をいつまでも応援出来るなら、勘当されても良いとさえ思っていた。だけど……年を重ねると、自分の感情だけで生きていく事って難しいのかも……。この年になってようやく知った。
「あなたが成功して活躍する姿、そばで見届けたかったけどね。ごめん……」
こんな勝手な決断をした私を、あなたはどう思うだろう。やっぱり君も普通の人だったのか……。と呆れるだろうか、嫌いになるだろうか。
「今日は疲れたでしょ? ゆっくり寝てね。私、明日には出ていくから。あなたが寝ている間に……。静かに出ていくから。見送られるのは辛いの。だから一人で行かせて。あなたの成功を遠くから祈っています。 ミナミ」
湯船に浸かりながら、彼にメールを送った。お風呂から上がり、あなたが好きだと言ってくれたワンピースに着替えて荷物をまとめた。そして、布団を頭から被って眠っている背中に、そっと呟いた。
「あなたの夢が、きっと叶いますように」
~fin~ 作:大河内ミュウ
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