この作品は、神野守作【切ない恋愛短編集】「雨の日のさよなら」を大河内ミュウさんが二次創作したものです。
まずは、神野守作【切ない恋愛短編集】「雨の日のさよなら」を読んでから、こちらを読んでいただくとより内容が理解できると思います。
神野守作【切ない恋愛短編集】「雨の日のさよなら」
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私はこの公園が大好き。どの公園にもあるすべり台やブランコはもちろん、たくさんの木々たちに囲まれているから。時折吹く風が、木の葉たちを優しく揺らしている。よく、お弁当持ってピクニックしたね。二人で寝転がって、他愛もない話に、涙を流しながら笑ったね。楽しかった。このまま時が止まってほしかった。
だけど……私はあなたに、そっと告げた……。
「さよなら……」
予想もしていなかった言葉に、あなたはとっても驚いて、まるでカミナリに打たれたみたいに動かないでいる。「どうして?何が起きてる?」って顔、してる。そうだよね。こんな言葉……聞きたくなかったよね。私は、こぼれ落ちる涙をそっと拭いて、あなたの傘から飛び出した。もうこれ以上、走れないと思った瞬間。
「待って!」
あなたが私に追いついてきた。さすが陸上部! 走るの、やっぱり早いね。あなたとの、楽しかった思い出たちが、走馬灯のように過ぎ去ってゆく。あなたは傘を放り投げ、私を力一杯抱きしめた。その力強さと鼓動が、私への思いを的確に伝える。
さよならって言ったのに、あなたは私にキスをした。目をつむって、がむしゃらに私の唇をふさぐ。そんなあなたの悲しみや葛藤が、唇を通して痛いくらいに全身に伝わる。おもわず体に力が入ったけど、じっとされるままでいた。
あんなに愛し合っていた二人。あなたが好きな歌も映画も、ドラマも漫画も全部観て覚えた。少しでもあなたに近づきたくて……。話が弾んで、どんどん二人の距離が縮まっていったね。
水族館や動物園にも行ったね。私が「コアラっていつも、寝起きみたいな顔してて可愛いよね?」って言うと、「そぉ?」って、不思議そうな顔してたの、覚えてる?
「ペンギンって揺れながら歩いてるけど、目が回らないのかな?」って言ったら、「三半規管が発達してるから大丈夫なんじゃない?」なんて、大真面目に答えてくれたっけ。
そんな素敵な思い出をいつまでも覚えていたくて、コアラやペンギンのぬいぐるみを目につくところに置いておいたんだよ。
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カラオケにも行ったね。マイクを持つとずーっと歌い続ける私を、あなたはいつも笑いながら盛り上げてくれたっけ。いつも私が歌ってばっかり。時折見せる、ひきつった顔はなんだったのかな? もしかして……音痴だったとか? あんなに楽しかったワンマンショーは、もう誰ともできないだろうな。
あなたは私のためにいろいろしてくれた。ダメなところなんて……嫌なところなんて……なかったよ。ひとつも……。
「私がいけないの。だからこれ以上、何も聞かないで」って言いたかったけど、うまく言葉にできない。黙ってうつむく私に、あなたは納得できる答えを求めている。
二人黙ったままの時間。その沈黙が耐えられなくなってきた時、左頬にあなたの頬が優しく触れた。私を抱きしめる手の力がだんだん強くなった時、あなたへの思いが溢れて、胸が壊れそうに痛かった……
「痛い……よ……」
おもわず声に出した。痛いのは体だけじゃない。心の方が、ずっとずっと痛かった……。
何も言えず、あなたの腕からすり抜けた私を、もう追いかけてはこなかったね。あなたの最後の優しさが、胸に沁みた。これでいい……。これであなたは、もっと幸せになれるよ。
大好きな公園にまた、あなたとの思い出がひとつ増えた。
~fin~ 作:大河内ミュウ
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