この作品は、神野守作【切ない恋愛短編集】「星の瞬く夜」を大河内ミュウさんが二次創作したものです。
まずは、神野守作【切ない恋愛短編集】「星の瞬く夜」を読んでから、こちらを読んでいただくとより内容が理解できると思います。
神野守作【切ない恋愛短編集】「星の瞬く夜」
「どうしたの? 何かいいことあった?」
「いや、ただちょっと、思い出し笑い…」
「へー、そう。じゃあ、行こう」
省吾の顔が、真っ赤な夕日に照らされて、なんだかいつもより大人っぽく見える。そういう私も、全身真っ赤なコート。実は今日、省吾に大切な話がある。たぶん彼は私のために身を引くだろう。優しすぎる人だから。そして私の元を去るだろう。
食事を終えた私たちは、夜の公園に向かった。
「ありがとう。」
肌寒くなってきた十一月の下旬、ベンチに座る私にホットコーヒーを差し出す。彼と付き合い始めてもう二年が経っていた。
「あ、あのさぁ、この前会ったときに話したこと、なんだけど…」
引っ込み思案で保守的な彼は、あまり自分から話を切り出さない。
「あ、結婚の事ね」
このタイミングで、彼に話すことにした。
「その前にさ、ちょっといいかな?」
「えっ?」
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結婚の話よりも大事な話があるのか、もしかしたら他に好きな人ができた、と思ったのかも知れない。表情をこわばらせたまま動かないでいる。
「私、アナウンサーになりたかったって話したよね」
「あ、あぁ、言ってたね」
「実はさぁ、私の先輩が地元のラジオのパーソナリティーやっててね。一緒にやらないかって、誘われたの。」
淡々と夢を語る私の話を、彼は真剣に聞き入っている。私の夢は、アナウンサーになること。この年齢からでは、どこまで出来るかわからないが、自分の限界に挑みたい。初めから諦めるより、失敗を重ねて人一倍努力して、それでも叶えられなかったって言う方が、経験と言う財産になる。様々な人たちとの関わりの中で、また新たな夢が見つかるかもしれない。
「そっか…そうだったのか…」
話を聞き終えた省吾は急に立ち上がり、満天の星空を指差す。
「ねぇ、見てみて、オリオン座だ」
「え?」
「あの星たちも、君の夢を応援しているよ。もちろん僕も、応援する。頑張ってきてね」
「え? ……うん、ありがとう。いつもほんと……ありがとう……大好きだよ……」
精一杯、明るく振る舞う省吾の姿が、なおさら愛おしくなる。会社を辞めてまで、僕との結婚を断ってまで、叶えたい夢なのかって責められても、仕方ないのに。彼の優しさが、今は逆に悲しくて、寂しい。
泣き顔を見られまいと、後ろから抱きつき、彼の手に指を絡める。
……震えている……?
ほんとに、ごめんなさい。頑固でわがままな彼女で……。
二人を包む静寂の闇に、オリオン座がキラキラと輝いていた。
〜fin〜 作:大河内ミュウ
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